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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)2713号 判決

本店所在地

東京都大田区大森本町二丁目二七番六号

株式会社川森屋

(右代表者代表取締役武田豊作)

本籍

長野県諏訪郡原村四〇五八番地

住居

東京都大田区東糀谷四丁目六番一一号

会社役員

武田豊作

大正五年一〇月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小柳泰治出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社川森屋を罰金二〇〇〇万円に、被告人武田豊作を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人武田豊作に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社川森屋(以下「被告会社」という。)は、東京都大田区大森本町二丁目二七番六号に本店を置き、海苔の加工販売等を目的とする資本金三二〇〇万円(昭和五四年二月一二日以前の資本金は二五〇〇万円、同五三年六月二〇日以前の資本金は二〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人武田豊作は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人武田豊作は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年九月一日から同五三年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一三八六万二六四四円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同年一〇月三一日、東京都大田区中央七丁目四番一八号所在の所轄大森税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七五一万二七九〇円でこれに対する法人税額が源泉徴収所得税額八七万三八一五円を控除すると九二九万〇九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一五九七号の1)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四三八三万〇九〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額三四五四万円を免れ

第二  昭和五三年九月一日から同五四年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二二三三万三八七三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同年一〇月三一日、前記大森税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五五〇三万一〇二九円でこれに対する法人税額が源泉徴収所得税額九七万三七五三円を控除すると一九三七万〇五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四六二六万六九〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額二六八九万六四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人武田の当公判廷における供述

一  被告人武田の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の被告人武田に対する質問てん末書五通

一  長野豊、長野格、小林富夫及び島田栄次郎の検察官に対する各供述調書

一  検察官、被告会社、被告人武田及び右被告人両名の弁護人作成の合意書面

一  収税官吏の長野格(二通)、小林富夫(三通)及び武田タキに対する各質問てん末書

一  大森税務署長作成の証明書

一  東京法務局大森出張所登記官作成の登記簿騰本

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五六年押第一五九七号の1及び2)

(法令の適用)

被告人武田の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があつたときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人武田の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

被告人武田は、昭和一一年の冬に本籍地から神奈川県川崎市内の海苔問屋へ出稼ぎ奉公し、同一三年四月には川森屋の屋号で海苔の卸、小売業として独立し、同二六年二月にこれを法人成りして被告会社として海苔の加工、販売を営み、同二四年ころから商品を納入することになつたそごう百貨店の発展に伴ない売上高を伸ばし、同五六年八月期には、被告会社を年商一四億円弱にまで成長させたものであるが、本件は、同被告人において、被告会社の業務に関し、二事業年度にわたり合計六一〇〇万円余りの法人税を免れたというものである。被告人武田は、申告所得額が売上高の三~四パーセントになるよう、自ら伝票類を作成し、あるいは経理担当者に公表帳簿類の数字合わせを指示していたほか、昭和四五年ころから棚卸除外などにより脱税を行なつていたものであつて、その犯情は悪質である。また、被告会社が中小企業であるゆえに社内留保を多くして将来に備えたかつたとする脱税の動機も、特に斟酌すべきものとは思われず、むしろ、被告人武田が顧問税理士などの注意を無視して犯行に及んでいたことにこそ、納税意識の希薄さが窺われるのである。そのほか、ほ脱率が源泉徴収所得税額を考慮しても六六パーセント強であることなどを考え合わせると、被告会社及び被告人武田の刑責は軽視できない。

しかしながら、被告人武田は、本件発覚後査察や捜査に素直に協力するなど改悛の情が認められること、本件につき修正申告をしたうえ、本税を完納するとともに、重加算税等を分割納付していること、同被告人には、前科前歴はないことなどの有利な事情も認められ、そのほか本件にあらわれた全ての事情を考慮して主文のとおり量刑する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 久保真人)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 川森屋

自 昭和52年9月1日

至 昭和53年8月31日

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社 川森屋

自 昭和53年9月1日

至 昭和54年8月31日

〈省略〉

別紙(三)

ほ脱税額計算書

株式会社 川森屋

〈省略〉

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